三峯神社が他の神社と圧倒的に違うこと、それは「ご眷属拝借」だと思います。
神様の霊力を持ち帰るには、通常「お札」を頂きますが、「ご眷属拝借」は、生身のお犬様を一年間我が家へ連れて帰る(お借りする)、恐れ多いシステムです。
お犬様(ニホンオオカミ)は三峯のご眷属(神様のお使い)。つまり大口真神(おおぐちのまかみ)様。
以前、遠宮(御仮屋神社)の記事に、「遠宮は、全国に貸し出されている、いわば出張されているお犬様を祀っている宮」と書いた。
遠宮の御焚上(おたきあげ)神事に参列すると、ご神職さんがお社に向かって、今月は何体のお犬様がお貸出されていった、という報告をします。
結構な数のお犬様たちが貸し出されていることがわかり、驚きます。
「ご眷属拝借」はかなり昔からあったシステムで、三峯神社にある「三峰山博物館」には、拝借用に使用されていた昔の古い木箱が展示してあったと記憶している。
宮司の中山高嶺さんの著書『三峯、いのちの聖地』には、ご眷属をお借りする場合の昔の決まり事として、次のように書かれています。
・ご眷属様を三峰山からお借りしたら、不浄のある家には寄らないで帰る。
・家に帰ったら、清らかな神棚か、祠(ほこら)を設けて納める。
・清らかな火でお供え物、小豆飯を炊いてお供えする。
・ご眷属様のために炊いた小豆飯はすべてお供えする。
小豆飯とは、遠宮・近宮でお供えされている赤飯(あかめし)のこと。
そして1年たったらふたたびお山に登ってご眷属様をお返しし、新しいものを頂いて帰るのだ。
ご眷属様一体で50件分の家(地域)をお守り頂けるので、地域で交代でお犬様のお世話をし、そうして「三峯講」(信仰の組織)が始まったと、本には書かれています。
元々ご眷属拝借というのは、個人というより、地域の火除けや盗難除けのためにされたのだと推察できる。
ちょっと横道にそれるが、神社に隣接する興雲閣に宿泊すると、宿泊客だけの早朝祈祷を受けることができます。
この興雲閣、元々は講の人のための宿泊所で、最盛期には関東・東北を中心に、千以上の講があったといわれています。
あるとき、春の週末に宿泊したのだが、興雲閣は講の人たちでいっぱいでした。
早朝のご祈祷に集まってきた講の方々は、かなりのご年配というか、お年寄りが多く、しかし男女共にみなきちんとスーツを着てらっしゃいました。
私は非常に早く本殿に行ったので、最初は一番前に座っていましたが、講のみなさんが続々と入ってくるにつれて、さすがに「これは違うな」と思い、後ろの席に移りました。
後ろの席にはなりましたが、講の方々のおかげで、滅多にみる機会のないお神楽(巫女舞)が奉納され、美しい巫女舞をみることができました。これは非常にラッキーなこと。
ちなみに興雲閣は、食事もとてもおいしいです。
そして「ご眷属拝借」に戻りますが、
私は恐れ多くて、とても生のご眷属様をお借りする勇気はない。
神道文化に造詣が深い作家・加門七海さんの著書『霊能動物館』に、「狼の部屋」という章があり、まさに三峯の「ご眷属拝借」にまつわる話が書かれています。
そこに記されているご眷属の霊力は、非常に強いものであると同時に、生易しいものではないということが書かれている。
頼もしくも恐ろしいもの。
私は日頃から、「神様は懐(ふところ)ふかく優しいが、神様を守るために存在しているご眷属様は、非常に厳しい」と思っているが、まさにそういう逸話が書かれている。
それは、【ご眷属様は、不敬があったら容赦しない】という話しだ。
ついうっかり、はずみでご眷属様のお札の上に乗っかってしまったおばあさんが、翌日亡くなった話しとか・・・。
容赦しないことについては、『三峯、いのちの聖地』にも書かれている。
毎夜泥棒が入る家があった。その家主が泥棒をこらしめるためにご眷属様をお借りしてくる。果たして翌朝大ケガをして唸っていた泥棒は我が子だったという話しが紹介されている。
一体何があったのかというほど息子はおびえ切っており、以後もそのときのことは絶対にしゃべらなかったとのこと。
また、「ご眷属拝借」をしたら、家に着くまで「決して振り返ってはいけない」という説もあります。
しかしご神職さんに伺うと、そのような決まり事はありません、という答えが返ってくるそうだ。
本当はどうなんだろう。
そして、一年後の「お返し」も、わざわざ出向かなくても郵送でよいそうだ。
うーん、ほんとに大丈夫?
ご眷属拝借は、神社から神様をお借りし、家に連れ帰るものだ。
昇殿し、ご祈祷を受け、きちんとお祓いをした後、授与される。
見えない力をお借りするということは、こちらも当然、見えないものを扱わせて頂くという真剣な気持ちが必要だ。
もちろん気持ちだけでなく、すべきことはしなければならないし、絶対に不敬があってはならない。
見えない力は強ければ強いほど、反動も強い。
ご眷属様をお借りしたいと思っている人は、ぜひ前述した2冊の本を読んでみることをお勧めします。
気が弱い私は、実は三峯に行くときはいつも、三峯から連れ帰った小さな木彫りのお犬様のお守りを連れていく。この子を握りしめ、山を守るお犬様たちへのお取次ぎをお願いしながらご参拝している。
「今日も無事にご参拝できますように。オオカミさん達とつながり、神様のご加護を頂けますように。ヨロシクとりついでね」と頼んでいる。
そのくらい、ご眷属様は怖いと思っているのだ。
ちなみにこの小さなお犬様、以前は「気守り」と一緒に社務所に並んで頒布されていたのだが、行くたびに少なくなっていき、とうとうなくなってしまった。
もう作られていないのかな。
一年に数回、三峯に里帰りし、都会で疲れたであろう体を休め、山のご神気をたっぷり浴びてエネルギーチャージしてもらう。
そうして元気になってもらって、また一緒に帰ってくるのだ。
私にとっての、ご眷属様拝借である。
『霊能動物館』 によると、毎年ご眷属様を拝借している女性が「一年に一度お返しに行き、また拝借してくるが、同じ子が来ているような気がしている」と語っている。
駐車場に戻って車に乗ると、ドスンと、自分以外の重さがかかる気がするとも言っている。
拝借するご眷属様は、、肉体はなくとも、本物の霊体だ。
よくよくそれを考えたうえで、拝借した方がいい。