<あらたえ、にぎたえ>の映画を観ました。
タイトルは『時の絲ぐるま~神々へ捧げる二つの織物の物語』。
天皇代替わりの年に一度だけ行われる天皇家の神事【大嘗祭】に調進される<麁服(あらたえ:麻の織物)>と<繒服(にぎたえ:絹の織物)>。この2つを製作・献上する二者(麻側と絹側)のドキュメンタリーです。
日頃、麻を神社に奉納したり、麻を使ったモノつくりを楽しんでいるので、<あらたえ>については触れる機会があるのですが、<にぎたえ>については今回初めて知りました。
この二つの布、大嘗祭における非常に重要な調進物ですが、その神事において、新天皇がこれをどのように用いるのかは全く公にされていず、また大嘗祭後は燃やされるそうです。
宮中祭祀は秘儀とされる部分が多いのですが、そこが秋篠宮さまの「大嘗祭は私費で」発言などにもつながっていくのでしょう。
<あらたえ>は誰が作るのかが重要で、<にぎたえ>は品質の良さが重要、という違いがあるそうです。前者は阿波国忌部氏より調進され、後者は大正時代以降、三河国稲武町より調進されています。
映画は、関係者のインタビューをもとに、その歴史や製作の過程を丁寧に描いています。
興味深かったのは、平成の大嘗祭と令和の大嘗祭との違いです。
平成の代替わりは昭和天皇御崩御によるものです。昭和天皇は終戦まで神とされたご存在。昭和終盤はまだ色濃く終戦の様相が残されていた時代。そのため平成2年に行われた大嘗祭への調進は、その製作が進むにつれ、右翼や左翼による即位の礼や大嘗祭反対のデモや製作者への脅迫電話があり、身の危険を感じながらの調進だったそうです。万が一のテロに備えて、同じ布を二つ作って備えたとのこと。
平成と言っても、既に我々には平成後半の記憶が強いと思いますが、その始まりと終盤とでは、全く違う時代の匂いがあったことは、想像に難くありません。
まだ上皇さまが天皇陛下の時代、85歳を前にした記者会見で、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」と、声を震わせながら仰ったことを思い出しました。
一方で令和の大嘗祭への調進は、ほとんど世間から関心をもたれず、むしろものたりないくらいだったと、<にぎたえ>を製作した愛知県の稲武町古橋会理事が語っていました。
上映会当日は、令和の大嘗祭に実際に献上された<にぎたえ>の予備が展示され、とても美しいものでした。